家具の上に蝋燭が数本立てられた燭台が2つ、壁には赤富士らしき絵画、そして赤に近いピンク色・紫色・水色の紫陽花の花が花瓶に飾られています。
お気付きでしょうか……。炭治郎達が珠世さんの屋敷を訪れる一連の話では、屋敷の庭では桜が咲き乱れており、満開ないし散り始めと思われる。場所は東京の浅草付近、桜が満開になるのは3月である。2月や4月ということはまずない。
つまり、桜の花と紫陽花の花が同時に咲く時期ではないのに、三色の紫陽花が花瓶に飾ってある。
これはなんらかの意図があって入っているカットではないのだろうか?
紫陽花が実は造花、という説がもしもあったなら、証拠がないので否定も肯定もできない。
ここでは造花か生の花かどうかではなく、なぜこのシーンがあるのか考えてみます。
紫陽花の花言葉は一般的に「無常」「移り気」「浮気」と言われています。また、ネットで調べてみると「家族」「団らん」という意味もあるらしいです。なんだか真逆の意味を持っているように感じられますね。
花の色によって更に花言葉がそれぞれあるそうですが、ここではそこまで触れずに色に注目してみます。
====ここから鬼滅の刃の原作終盤のネタバレになるので注意=====
戦国時代の最強剣士・継国縁壱の記憶によると、かつて珠世さんは鬼舞辻無惨に鬼にされた後に、無惨と行動を共にしていたことがあります。珠世さんは自分を騙した無惨を心の底から憎んでいたため、自らの意思で共にしていたというよりも、無惨の呪いで逃げられないようにされ、不本意に侍(はべ)らされていたように感じられました。
もしかしたら、無惨に付き従うことで復讐の機会を狙っていたり、弱点を見つけるために一緒にいたのかもしれませんが、珠世さんが単身で殺せる相手ではないと知っているようでしたね。
無惨を憎みながらも付き従うしかなかった、悲しい過去です。
しかし継国縁壱が無惨を斬り、無惨が体を小さな肉片に変えてバラバラに飛び散って逃げた際に珠世さんは呪いがとけて自由になりました。
そのすぐ後に珠世さんは、縁壱と話し合って人間と協力して無惨を倒す決心をします。それから二度と人間を襲ったりせず、もう死んでいる人間や動物を食べて命を繋ぐようになりました。戦国時代の出来事なので、大正時代から遡ってだいたい500年近く前のことです。
その後の珠世さんの生活の詳細は詳しく語られていませんが、ある時から医者になり、200年かけて初めて自分1人の手で人間を鬼化させることに成功します。それが愈史郎です。
・500年前に無惨の呪いがとけて自由になった
・人を鬼にする試みを始めてから200年ぐらいで一例目に成功
また、愈史郎が鬼になった時期は明確にされていませんが、『キメツ学園物語』で愈史郎が中等部の制服を着ていること、炭治郎達、いわゆるかまぼこ隊よりも幼く見えることから、今で言う中学生ぐらいの年齢で鬼になったと思われます。
(ここからは私の個人的な想像なのですが、13歳当時の義勇や錆兎、14歳の無一郎と比較すると、愈史郎は14〜15歳ぐらいに見えるので中2か3ぐらいかなと思っています。しかし原作のコマによってはもう少し幼く見えるかもしれません)
単行本の初回特典の小冊子によると、愈史郎の実年齢が35歳なので、愈史郎が鬼になったのは明治時代と思われます。珠世さんが人間の鬼化を試みて成功した200年目は明治時代ということになります。
少し話が逸れましたが、珠世さんは長い歴史の中で、常に行動を共にする鬼が交代しているわけです。
珠世さんに、無惨と愈史郎以外の鬼の相棒(?)がいたことがあるのかというと、無惨と無惨の手下から「逃れ者」とされて珠世さんがずっと追われていたため、愈史郎以外の他の鬼=無惨の手下が味方になったことがあるとは考えにくいのではないでしょうか。その鬼が無惨の呪いから自由になっていない限りは。
つまり、珠世さんが鬼になってから一緒にいた鬼は無惨か愈史郎ということになります。
ここで話は戻って、アニメのオリジナル要素の紫陽花の色を見てみましょう。
赤に近いピンク、紫、水色……この3色は、それぞれ鬼舞辻無惨、珠世、愈史郎のイメージカラーっぽくありませんか?
紫陽花の花言葉の「移り気」「変化」と、珠世さんが行動を共にしていた鬼の変遷が、ここでマッチしてくるのです。
珠世さんから見て、無惨様と愈史郎に対して恋愛感情があったのかどうかは分かりません。 そのため、紫陽花の花言葉の「移り気」は珠世さんに当てはまらないかもしれませんが、戦国時代に縁壱が無惨に遭遇した時の珠世さんがまるで無惨様の奥さんか愛人のように2人きりで夜道を歩いていたこと、愈史郎が明らかに珠世さんに恋愛感情を持っていることから、この3人の間には(仮にどちらかの一方的なものだったとしても)色恋が絡んでいると思うのです。
珠世さんは自分の家族を食い殺してから、誰かの恋愛感情に答えることはあったのかもしれないし、無いとも言い切れない。ファンブック2によると愈史郎に「生まれ変わったら夫婦になって欲しい」とお願いされて承諾したという裏話はあるのですが、それ以外は読者の想像に任せられるところです。
(ちなみに珠世さんが人間だったのは戦国時代かそれよりも前になるのですが、そこから大正時代に至るまでは恋愛や夫婦のあり方、性のあり方に様々な変化が起きています。令和の日本人の常識からは想像つかないような価値観もあったはずです。昭和ぐらいまで遡ると、既に現代とは恋愛と性のあり方が結構違うこともあるぐらいです)
珠世さんは無惨から呪いで支配されていたため、おそらく不本意ながら常にそばに置かれていました。その関係性は、想像すればするほどインモラルないし酷たらしい愛憎劇になってしまうのですが。
一方で、愈史郎は珠世さんがやっと出会えた鬼の協力者であり、愈史郎は珠世さんをこの世の全てであるかのように慕っています。単に、鬼にされた者は鬼にした者に魅了されるだけなのかもしれませんが……(無惨と手下もそうなので)
また、愈史郎は珠世さんの夫や子供の生まれ変わりかもしれないという考察もあり、それだと珠世さんが生まれ変わって元々の家族と幸せに暮らすくだりがファンブック2にないのも納得なんですよね。
ともあれ愈史郎と珠世さんの関係は唯一無二の鬼同士の強い協力関係にあり、無惨を殺す目的がある限りいつか死別してしまう儚い関係でもあります。お互いが恋仲だったかどうかはよく分からないけれど(親子や姉弟のようにも見える)、生々しい話ですが昔の人なら、一人前になるための教育として年上の女性が性知識を若者に授けることがあったので、それぐらいはあったかもしれない。だとしたらなおさら愈史郎は恋仲になれずにモヤモヤですね……。余談ですが、私が思春期の頃ぐらいまでは、男性にとって本命の女性や結婚相手が初めての相手、というのは経験不足すぎて恥であるとされていた風潮がありました。だから風俗などで、誰かに手ほどきをされて恋人に対して "準備" できているのが一人前でした。ほんの32年前ぐらいのことです。最近はお互いが好きで同意なのが何よりも大切という風潮ですよね。話が逸れましたね。
庭の桜が満開な屋敷に不自然に紫陽花が飾られてるシーンを見る度に、珠世さんの変遷を思い出さずにはいられないし、無惨と対立する愈史郎の強い意志を想像してしまいます。
そうしたものを暗示するために、3色の紫陽花が1つの花瓶に活けてあるシーンがあるのではと思っています。
アニメ化で独自に入れられたこのカットは、鬼滅の前身となった『過狩り狩り』のファンとしてはとても嬉しいものでした。なぜか分かりませんが、私はこの三角関係(?)がとても好きなんですよ〜。なんだろうこの気持ち?
この3人(鬼ですが)は『過狩り狩り』から引き続き登場しているようなキャラクターです。「ような」というのはそのままではないからです。見た目などが少し変更されています。珠世さんは鬼滅では少し大人びており、愈史郎は逆に幼くなり少年になっています。鬼舞辻無惨は、時川というキャラクター+外国から来た吸血鬼の要素が合わさってラスボスになった存在ではないでしょうか。
なお愈史郎だけが、鬼滅世界でも人を食べずに血液のみで生きているという純粋に吸血鬼の設定を保ったキャラクターです(珠世さんは過去に人を食べていたから)
吸血鬼は長い年月で人間に戻るという言い伝えがあるため、ファンブック2で語られた愈史郎の未来の可能性からも、吸血鬼の設定が残されているかもしれないと思います。
愈史郎だけは鬼滅の刃のストーリーや背景に合わせて『過狩り狩り』から生態が変えられることなく(見た目年齢と能力が強くなってる変更ぐらいで)、作者が上手いこと吸血鬼の設定のままにしているこだわりを感じるように思うのです。
余談:私は子供の頃から今に至るまで、三角関係や恋愛にライバルが登場する展開が苦手なのですが、珠世さんと無惨と愈史郎の複雑な関係性がとてもツボです。人外だから成り立つ特殊な条件下だからかもしれませんね。